オンデマンド配信

  • L01. 高大接続授業から生命倫理教育と多職種関連携を考える
      岡野康幸(群馬医療福祉大学社会福祉学部)
      半田正(群馬医療福祉大学医療技術学部)
  • L02. 宇宙航空研究開発機構における人対象医学研究倫理教育プログラムの開発・検討
      松崎友美、秋元茉莉、松本暁子(宇宙航空研究開発機構有人宇宙技術部門)
  • L03. 生命倫理の人間学的基底―「個人の統合性」原則とその教育方法について
      宮島光志(富山大学学術研究部薬学・和漢系)

演者報告

高大接続授業から生命倫理教育と多職種関連携を考える
岡野康幸(群馬医療福祉大学社会福祉学部)
半田正(群馬医療福祉大学医療技術学部)

 現在、安全で質の高い医療を提供するため様々な専門職がチームを形成し、連携・協働して治療やケアを行っている。チーム医療として各専門職が連携するには、互いに共有できる知識と倫理観の形成が必要不可欠である。しかし、現状では高校時に「倫理」を受講している高校生は少なく、大学入学後に「倫理学」(生命倫理・医療倫理を含む)を始めて受講する者が大半である。その差を埋めるため、入学前の高校生にチーム医療の視点から倫理について学び考えることで、入学後の「倫理学」の授業に円滑な接続が可能と考える。すなわち、その場が高大接続授業である。

 高大接続授業を通じて高校生の倫理への印象がどのように変化したか。また、チーム医療の視点からどのような連携が可能か。高校生へのアンケートやコメントを通して、高校生の意識の変化を明らかにしていった。更に医療従事者の倫理観形成の根幹に儒学における「仁」、―特に、他者への共感力である“惻隠の心は、仁の端なり”と、医療行為そのものが仁の現れとする“医は仁術なり”の考え―に基づく倫理教育が可能ではないか、という見通しのもと実践した報告である。なお、この研究は群馬医療福祉大学の研究倫理審査の承認を経て実施したものである。(承認番号: RS22-05)

生命倫理の人間学的基底―「個人の統合性」原則とその教育方法について
宮島光志(富山大学学術研究部薬学・和漢系)

 この研究発表は、演者が開発したオンデマンド教材「研究活動における生命倫理:インテグリティの3原則」(富山大学大学院共通科目「研究倫理」)の概要紹介であり、生命倫理と研究倫理を統合する教育プログラムの理念と方法について会員の皆さまと議論を深めたいと演者は念じていました。

 演者が提唱する「インテグリティ3原則」(Research Integrity [RI], Data Integrity [DI], Personal Integrity [PI])は、[第1原則:RI]研究活動のインテグリティを追求する(シンガポール宣言など)[第2原則:DI]研究データのインテグリティを確保する(FDAのALCOA原則など)[第3原則:PI]研究対象者のインテグリティを尊重する(ユネスコ生命倫理の第6原則など)から構成されます。それらを《三幅一対の原則》として動的に構造化し、とりわけ第3原則よって研究倫理と生命倫理を連結するために、演者は独自の《蝶番モデル》を提示しました。

 演者の基本的な発想は、本邦でも定着し始めた「インテグリティ」概念が文脈や場面に応じて多義的で曖昧だという〈難点〉を逆手に取って、それを包括性ゆえの〈利点〉として活かすこと(逆転の発想)でした。そして[第3原則:PI]研究対象者のインテグリティを尊重するについて、「個人の統合性(全人性)」理念が、研究対象者(の尊厳)と同時に、研究遂行者(の矜持)にも再帰的に関わると強調しました。

 しかし、大方の予想どおり、こうした演者の着想と構想は(今回もまた)何らの反響も呼びませんでした。あまりに観念的で自己満足的だという、無理からぬ拒否反応を払拭できるように、理論構制を洗練させて、再起を期したいものです。そのヒントが三木清の「人間学のマルクス的形態」に隠されていることを、演者は本発表の冒頭で示唆しました。