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  • H01. 当事者のACP(人生会議)
      冲永隆子(帝京大学共通教育センター)
      濱田哲郎(ジャーナリスト・元NHK社会部記者)
  • H02. 終末期医療のコミュニケーションに関する研究―マイクロカウンセリング技法に焦点をあてた看護の一考察
      古賀悦子(九州大学医学部保健学科看護学専攻修士課程)
      丸山マサ美(九州大学大学院医学研究院保健学部門看護学分野)

演者報告

当事者のACP(人生会議)
冲永隆子(帝京大学共通教育センター)
濱田哲郎(ジャーナリスト・元NHK社会部記者)

 いのちに関わる万が一の時、どんな医療やケアを受けたいのかを自分の意思で決定できない時に備えて、家族や医療者らと繰り返し話し合っておくことを、アドバンスケアプランニング(ACP)という。2019年11月に厚生労働省がACPに「人生会議」の愛称をつけ普及啓発に努めてきた。本報告では、ACPの課題の一つとして、「医療者と患者・家族のコミュニケーションの難しさ、関わるプロセスの在り方」を取り上げ、演者冲永のかつてのACP共同研究者かつ患者当事者のA氏(故人、2022年1月に他界)とその遺族の語りから検討した。

 遺族との対面の聞き取りにおいても、死の直前まで活動を続けたA氏の当事者としての語りから垣間見えるACPの問題点や心の葛藤について、さまざま語り合った。生前A氏は、入院闘病中に医師とのパワーバランスに悩み、自分の命に関わる重要な疑問も遠慮して言えなくなったこと、自分が実践していたACPのあり方と医師から投げかけられたACPのあり方やタイミングが異なることで家族関係が混乱したこと等、スピリチュアルペインを訴えていた。そして遺族も同様に、筆者の前で、家族目線でのスピリチュアルペインとしての怒りと悲しみを露わにされていた。特に、在宅闘病中に下顎呼吸で苦しむ様子を見るに見かねたご家族が主治医を電話で呼ぼうとするも「呼吸が止まってからにしてください」と告げられたことが遺族にとって大きな衝撃となり後々まで深い傷となった。
本発表では、この①「イキナリACP」と②「呼吸が止まってからにしてください」をめぐり、短い時間ではあるが、参加者同士の対話的考察と議論を予定していたが、今回コロナ禍で実現叶わなかったので、次の機会に期待したい。

 なお、A氏より生前、データ公開はじめ内容報告について承諾を得て共同発表を行ってきたが、個人が特定できるような情報は遺族の方々との相談の上、慎重に扱っている。本研究は指針非該当のため倫理審査委員会への付議は行われていない。ただし、研究対象者に対する事前の説明と同意を実施の上、得られたデータは当該個人が特定されないかたちで厳重に管理の上、実施した。

終末期医療のコミュニケーションに関する研究―マイクロカウンセリング技法に焦点をあてた看護の一考察
古賀悦子(九州大学医学部保健学科看護学専攻修士課程)
丸山マサ美(九州大学大学院医学研究院保健学部門看護学分野)
I. はじめに

急速に高齢化が進み高齢多死社会を迎える日本では、終末期がん患者と看護師のコミュニケーションは極めて重要である。これまで終末期医療のコミュニケーション技術に焦点をあてた研究は少ないことから、終末期がん患者に対する看護師のコミュニケーションに着目し終末期医療の質向上を模索した。

II. 目的および方法

終末期がん患者とかかわる看護師のコミュニケーションにおいて、心理学カウンセリングを基本としたマイクロカウンセリング技法からみた看護師のコミュニケーションの現状を明らかにした。A県2病院の終末期がん看護に携わる看護師へ、2022年1月18日~5月19日、半構造化インタビューを実施した。質問項目は、マイクロカウンセリング技法によるコミュニケーション評価のインタビューガイドに沿って実施し質的に分析した。

III. 結果

看護師10名は、基本的かかわり技法『視線』・『態度』・『表情』・『座り方』・『うなずき』を実施していた。『開かれた質問・閉ざされた質問』は10名中8名、『はげまし』は10名中8名、『いいかえ』10名中4名、『要約』は10名中6名ができていた。『感情の反映』は10名中2名であった。言語頻度をみると、「患者」「家族」の用語が多く使われていた。

IV. 考察

終末期医療の看護では、コミュニケーション技法:基本的な傾聴スキル<視線・態度など>に比し、患者に話をもっと促すスキル<はげまし・いいかえ・要約>や感情の表出を促すスキル<感情の反映>の活用が不足している。今後、さらに終末期医療の看護場面において看護師のコミュニケーション技術の評価と共に看護師がコミュニケーションスキル習得の訓練の必要性が示唆された。