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      石井哲也(北海道大学安全衛生本部)
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  • F03. 小児・思春期がん患者の妊孕性温存についての情報提供に関する現状と課題
      土屋裕子(立教大学)
      櫻井浩子(東京薬科大学)

演者報告

小児・思春期がん患者の妊孕性温存についての情報提供に関する現状と課題
土屋裕子(立教大学)
櫻井浩子(東京薬科大学)

 本研究は、昨今AYA世代のがん患者に対する妊孕性温存に関する情報提供の重要性が指摘されているにも関わらず、実際にはそれは十分に行われておらず 、特に小児・思春期のがん患者については、親の意向によりその情報提供が制限される場合があることに対する問題意識から始まった。

 本発表においては、小児・思春期のがん患者への妊孕性温存についての情報提供に関する国内外の先行研究およびデータを整理し、その現状について提示するとともに、妊孕性温存に関する情報提供の障壁について明らかにした。妊孕性温存に関する情報提供の障壁としては、医療者の妊孕性温存に関する知識・経験不足や説明資材の不備、患者の予後不良といった要因のほか、患者が小児・思春期の場合には、親の意向というものが大きく影響していた。発表者は、親が子どもへの妊孕性温存に関する情報提供を制限するのは、子どもががんと診断された際の親の心理状態が影響しているものと考え、子どもががん告知を受けた親の思いに関する先行研究から、妊孕性温存に関する情報提供についての親の思いを考察した。他方で、小児・思春期のがん患者の多くは、治療前のできるだけ早い時点で妊孕性に及ぼす影響を知りたいと強く望んでいたという海外報告もあり、妊孕性温存に関する情報提供は、親と子それぞれの思いが絡む複雑な問題であることが明らかになった。

 妊孕性温存に関する情報提供は、患者の病状や背景などにより、非常に複雑かつ個別的な問題があり、すべての子どもに妊孕性に関する情報を提供することが望ましいとは言えない。しかし、妊孕性を温存するかいなかは現在の決定ではあるものの、同時に子どもの将来に関する重要な決定でもある。これまで一般的な医療行為、またはがん治療という文脈の中で議論されてきた「子どもへの情報提供」という問題を、がん・生殖医療という文脈の中で、特に妊孕性に関する情報に焦点をあて、子どもは何を望み、どのように意思決定にかかわりたいと思っているのか、「子供の自己決定権」という視点から議論していく必要があると考える。