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- B01. 大規模住民健康調査における倫理課題ー「岩木健康増進プロジェクト」の倫理支援を通してー
有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)
神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室) - B02. プラットフォーム型研究におけるダイナミック・コンセントの有用性
有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)
神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室) - B03. 個人情報保護法改正と同意のない観察研究
吉峯耕平(田辺総合法律事務所) - B04. 臨床研究担当者会議における研究倫理教育について
脇之薗真理(藤田医科大学研究推進本部/国立長寿医療研究センター)
平松裕之(藤田医科大学研究推進本部)
山本勇樹(藤田医科大学事務局)
上杉啓子(藤田医科大学研究推進本部)
近藤征史(藤田医科大学研究推進本部)
飯島祥彦(藤田医科大学医学部) - B05. ヒト胚の培養可能期間をめぐる専門家・一般市民に対する意識調査
由井秀樹(山梨大学)
武藤香織(東京大学)
八代嘉美(東京都健康長寿医療センター)
渡部沙織(東京大学)
木矢幸孝(東京大学)
藤澤空美子(東京大学)
山縣然太朗(山梨大学)
演者報告
大規模住民健康調査における倫理課題ー「岩木健康増進プロジェクト」の倫理支援を通してー
有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)
神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室)
大規模住民健康調査では、地域住民の継続的な参加が重要であり、そのためには住民との信頼関係の構築・維持が不可欠である。しかしながら、疫学調査自体に対する認知度や理解度が一般に低い中、健診の目的や方法、また、データを誰が、どのように利用するか等について、住民の理解を得ることは容易いことではない。さらに、信頼関係の構築・維持に資する適正な研究実施という観点でも、法令・指針が複雑化している現在の状況においては、現場での適切な判断が難しい課題も生じている。
本発表では、当研究室が倫理支援を担当する弘前大学で17年間にわたり実施されている大規模住民健康調査「岩木健康増進プロジェクト」を例に、我々が行ってきた支援内容を紹介するとともに、研究者より受けた相談内容を分類し、そこから導出された倫理的課題の特徴を挙げた。長期間にわたり蓄積された健診データベースを用いた産学共同研究で最も複雑な問題が生じやすいのは、データの収集・連携・活用の活用段階であった。特に、データ取得時には想定されていなかった研究の開始に伴い、データが要配慮個人情報を含むこと、産学共同研究では研究の先に産業利用が見込まれること等により手続が複雑になる傾向があるため、きめ細かい倫理支援の必要があることを報告した。
プラットフォーム型研究におけるダイナミック・コンセントの有用性
有澤 和代(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野)
神里 彩子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 生命倫理研究分野/研究倫理支援室)
インフォームド・コンセントには、個別同意に加えて、広い用途に対応できる同意として、broad consentやblanket consent, open consentがあるが、いずれも事前の同意であるため、研究対象者の予見可能性の観点から疑問が残る。そこで、活用が期待されるのが、dynamic consentである。日本でも2021年に電磁的方法によるインフォームド・コンセントが許容されたことから(「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」第8-2)、この手法を導入する研究が増えていくことが予想される。
本発表では、dynamic consentが有効に機能する研究の条件を検討し、同意の柔軟性、時間的・地理的制約がないというアクセスの容易性、同意の記録の管理容易性、継続的なコミュニケーションという特長から、調査期間が長く、研究対象者数が大規模で、データや試料を広く提供する研究に適していることを示した。その上で、データアクセスに関する個人の意思を適時に反映しうるdynamic consentの仕組みが、同意を受ける時点では特定されない将来の研究への利用が予定されるデータプラットフォーム型研究の同意取得の方法として適合的であることを、研究対象者の負担などの課題とともに報告した。
臨床研究担当者会議における研究倫理教育について
脇之薗真理(藤田医科大学研究推進本部/国立長寿医療研究センター)
平松裕之(藤田医科大学研究推進本部)
山本勇樹(藤田医科大学事務局)
上杉啓子(藤田医科大学研究推進本部)
近藤征史(藤田医科大学研究推進本部)
飯島祥彦(藤田医科大学医学部)
研究倫理教育の実践例として、本学で2022年7月より開講された臨床研究担当者会議の実施状況等を報告した。
【実施目的】各医局において、臨床研究全体の取りまとめや指導、管理を代表して行うことのできる臨床研究担当者の育成。
【実施方法】対面と学内Teams配信ハイブリッドの会合と学内e-learningシステム「学びばこ」を用いる講義配信を併用。講義は、研究倫理の基礎やインフォームド・コンセント、倫理審査手続き等、臨床研究実施や倫理に関する基礎事項、毎回のチェックテストで構成。
【研究倫理教育としての位置づけ】受講者対象の事前アンケートにより臨床業務に追われ研究の時間すらとりにくい現状が分かった。それを踏まえ、今回は研究倫理の基礎的な知識に絞り、理解の徹底を図ることとした。将来的には臨床研究担当者は研究倫理のルールについてその背景や理由も理解した上で指導できることを目指す。
【実施状況】対象者55名の内、第1回(対面+配信):約82%、第2回(配信):約75%、第3回(配信):約49%が参加・受講(※発表時点)。未受講者へのリマインドや、配信動画の再生時間が明らかに短い受講者への対応等が課題。
【考察】1)医師らがeAPRIN等で習得したはずの基礎知識を前提に、最低限理解しておくべき研究倫理のコアをより洗練させていく必要がある。2)適切な講師の選定を含め、研究倫理教育と臨床研究実施の基礎的スキルの教育とをリンクさせていくことが必要である。
ヒト胚の培養可能期間をめぐる専門家・一般市民に対する意識調査
由井秀樹(山梨大学)
武藤香織(東京大学)
八代嘉美(東京都健康長寿医療センター)
渡部沙織(東京大学)
木矢幸孝(東京大学)
藤澤空美子(東京大学)
山縣然太朗(山梨大学)
はじめに
長らく、ヒト胚の体外培養が許容される期間を14日以内とする、いわゆる14日ルールが各国の規制に取り入れられてきた。近年の科学研究の進展により、このルールの見直しが議論されている。本報告では、日本のヒト胚関連の行政指針を確認した上で、我々が実施した調査の結果を紹介した。
日本の行政指針の状況
ヒト胚関連の研究は、研究目的に応じて「ヒトES細胞の樹立に関する指針」などの特別な指針が適用され、こうした指針で14日ルールが規定されている。特別な指針に該当しない内容であれば、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の対象となるが、ここにヒト胚関連規定は置かれていない。
専門家調査
日本再生医療学会、日本医療研究開発機構(AMED)の協力を得て、幹細胞関連の研究を実施している科学者に対するweb調査を実施し、535名のデータを分析した。14日を超える培養について、日本の規制で容認されるべきと答えた人は46.2%、禁止されるべきと答えた人は24.5%、判断できないと答えた人が29.3%であった。
一般市民調査
日本リサーチセンターのモニターに登録している3000名を対象にweb調査を実施した。14日を超える培養について、日本の規制で容認されるべきと答えた人は37.9%、禁止されるべきと答えた人が19.2%、判断できないと答えた人が42.9%であった。研究内容の理解度が高くない人は、判断できない傾向にあった。
おわりに
今後、日本の規制でも14日ルールの取扱が議論されるであろうが、専門家でない人たちの少なくない割合は、判断ができないものと思われる。議論の水準を高めるための情報発信の必要性が示唆される。
質疑応答
特にコメント、質問はいただいていない。