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  • A01. 医療の場面における2つの「信頼」について
      石田安実(神奈川大学)
  • A02. 在宅医療・ケアに関わる専門職は「尊厳」をどのように理解しているのか
      堂囿俊彦(静岡大学学術院人文社会科学領域)
      天野ゆかり(静岡県立大学経営情報学部)
      本家淳子(浜松医科大学医学部)
      青田安史(常葉大学健康科学部)

演者報告

医療の場面における2つの「信頼」について
石田安実(神奈川大学)

 発表者はこれまで幾つかの機会に、医師-患者関係における「信頼」と患者の「自律」間の関係を論じてきた。本発表では、医療倫理で重要視される患者の「自律」や「自律的判断」を考察することが、医師-患者間の「信頼」が非常に重要であることを示すことに繋がると論じた。議論のために、「自律」を近年あらたな「自律」概念として主張されている「関係的自律(relational autonomy)」と解釈し、その解釈に基づき、社会的環境からの影響が「内面化された縛り」として作用し、自律的に判断しようとする者に否定的・抑圧的に働く危険性があることを確認した。この解釈に基づけば、患者の自律に関する判断能力は程度の差こそあれ完璧ではないと理解することができる。この理解および医療倫理でしばしば指摘される問題、すなわちインフォームド・コンセント等の場面で患者の自律的決定を尊重するあまり、患者が医師側が合理的とする判断に背く決定をするという問題の分析を通して、医師-患者関係においては「信頼」や「自己信頼」が重要な役割を担うことを示した。さらに「防衛医療」の問題を検討しながら、その「信頼」は少なくとも2種類が区別できることを提案した。この「信頼」の区別は、患者を単なる被治療者というだけでなく、様々な価値観を有する人間として扱う手がかりになると思われる。