2022年11月20日(日) 11:10~12:40
Zoom2 オンライン(ライブ配信)

オーガナイザー

笹月桃子(西南女学院大学・九州大学大学院医学研究院)

報告者

鉄原健一(福岡市立こども病院 集中治療科)
植竹日奈(ケ・セラ社会福祉士事務所)
笹月桃子(西南女学院大学・九州大学大学院医学研究院)

キーワード

代理意思決定、子ども、家族、医療者、関係性

報告

 本ワークショップは、本学会の年次大会にて、5年余にわたり子どものいのちに関わる代理意思決定について議論してきた延長線上に位置づく。

 子どもの代理意思決定をめぐる限界・可能性・課題を探究してきたこれまでの道のりを踏まえ、今回はあらためて「子どもの代理意思決定を再々考する」と題し、いかに代弁の困難性を克服し、弱い立場に置かれた子どもの最善の医療を見出しうるか、討論することを目的とした。

 鉄原は、小児集中治療医として担当した5歳の子どもの脳死下臓器提供という選択肢をめぐる両親との対話の実例を紹介した。子どもの医学的状態の変遷と、我が子にとって最も善い道を見出そうと模索する両親の願いと苦悩がつぶさに示された。立場や時相により異なる物語が交差する中、主治医として徹底して子どもを主語に据えて両親を支援し、最終方針決定に至った、その協働意思決定の過程の複層性と困難性が共有された。

 植竹はソーシャルワーカーとして、神経難病患者や重症心身障害児/者の医療に関わる意思決定支援に関わってきた経験から、さまざまな価値観が反映された多様な声を紹介した。子どもの代理意思決定においては人称の混乱が生じやすく、子どもは大人の価値観に「翻弄される『弱き存在』」となり得ることが、指摘された。

 笹月は、今までの5年の議論の経緯を紹介した上で、子どもの最善の利益の捉え難さと子どもの立場の脆弱性(将来>現在、価値>事実、関係性に取り込まれやすい)を整理し、それらをいかに克服できるかについて考察した。
3人の報告の後、以下、お二人に指定発言をいただいた。

 板井は、どんなに子どもを主眼に「推しはかって」みても、その過程・決定のフィクション性は拭えないという困難性と葛藤に言及し、それらをどのように受け止めていくべきかフロアに問われた。

 櫻井は、親として、我が子が身体をもって表す非言語の「生きたい」という意思を受け止めた経験を紹介し、その究極的な代理意思決定は、大人のそれが動的であるのに比し、より静的であると述懐された。

 この後、参加者から、医療チーム内でのコンセンサス形成の在り方、医師の誘導、技術的介入の医学的意義、医学教育の役割、治療方針の(法的)統一性の是非について質問いただいた。今後の代理意思決定のあり方を議論する事前に、小児医療現場での意思決定の現状の共有が依然求められていることが実感された。子どもの代理意思決定は決して容易ではないが、葛藤から逃れようと即一般化できる正解を求めるのではなく、いかに個別に正しく迷えるか模索・共有していくことが重要であることも改めて顕示された。

 本議論が、子どもに限らず、社会共同体にて弱い立場にある人々(高齢者・認知症患者・難病患者・障害者など)を主体者に据えた代理意思決定の在り方を見出す端緒となることを期待する。

鉄原健一(福岡市立こども病院 集中治療科) 
植竹日奈(ケ・セラ社会福祉士事務所) 
笹月桃子(西南女学院大学・九州大学大学院医学研究院)
板井孝壱郎(宮崎大学医学部付属病院)
櫻井浩子(東京薬科大学)