2022年11月20日(日) 15:50~17:20
Zoom1 オンライン(ライブ配信)

オーガナイザー

小門穂(神戸薬科大学)

報告者

仙波由加里(お茶の水女子大学)
西本和見(中京大学)
洪賢秀(明治学院大学)
柘植あづみ(明治学院大学)

キーワード

精子提供、卵子提供、提供者の匿名性、出自を知る権利、生殖補助医療法

報告

 本ワークショップでは、第三者の提供で生まれた人が、提供で生まれた事実を知らされる権利および提供者の情報を取得する権利、すなわち出自を知る権利について検討した。

 まず、オーガナイザーの小門穂から、日本で検討されている法律案では提供者が匿名または非匿名での提供を選択できるため提供を伴う生殖医療を用いて親になる人や提供者には選択肢が担保されているが、生まれた人には選択肢がないこと、さらに国内の医療機関における提供による出生だけではなく、国内の個人間での提供による出生、国外での提供による出生があるため、出自を知る権利を考えるにはこのような状況も視野に入れた検討が必要になるという現状を踏まえ、第三者からの提供をともなう生殖補助医療で生まれた人の出自を知る権利をいかに保障するかを考えたいという趣旨説明がなされた。

 最初の話題提供として、西本和見が思想史の立場からA.センのケイパビリティ論を用いた出自を知る権利の保障を検討した。提供者、提供を受ける人、生まれる人の平等の対立をいかに解決するかという視点からセンの思想を紹介した上で、提供を受ける人が匿名提供者と非匿名提供者を選択できるシステムは、子どもの立場から見たときには自由な選択とは言えず、平等的な解決とはなりえないと考察された。

 続く話題提供として、小門・洪賢秀・柘植あづみが、卵子提供を受けた女性と卵子提供を受ける準備をしている女性に対して実施したアンケート調査に基づき、提供を受ける人の出自を知る権利に対する考え方が提供者選択に及ぼす影響を検討した。回答者は出自を知る権利を肯定的に捉える人が多いが、必ずしも非匿名の提供者を選択できているわけではなく、出自を知る権利を保障するしくみがないと、個人として出自を知る権利を肯定していても、結果的に生まれた人が提供者について知ることができない状況が生まれると示した。

 最後の話題提供として、仙波由加里から、2022年の米国コロラド州法を中心に配偶子ドナーの匿名廃止のための法的な議論が取り上げられた。匿名性廃止の背景にはDNA検査会社の利用によって匿名が維持できなくなっていることが挙げられ、提供者を非匿名として透明性の高いシステムを作ることで生まれる人の利益を守ろうとしていることが考察された。

 洪からのコメントでは、韓国の配偶子提供の動向と出自を知る権利の状況について紹介された上で、匿名性のもとで実施された提供によってすでに生まれた人への対応や、生殖ツーリズムが普及する中で子の権利をいかに保証できるのかという指摘がなされた。
柘植からのコメントでは、生殖医療を用いないで生まれてくる人にもすべての人に出自を知る権利があるといえるか、出自を知る権利を容認しつつ匿名の提供者から提供を受ける人の事例からどのようなことが考えられるのか、といった問題提起がなされた。

 話題提供とコメントに続いて、会場参加者とディスカッションを行った。消費者直販型DNA検査の普及の要因や、出自を知る権利がどのような権利として位置づけられるのか、生殖ツーリズムの受入国となっているスペインや台湾でドナーが匿名でありつづける理由などについて活発な議論が行われた。

小門穂(神戸薬科大学)