2022年11月20日(日) 14:10~15:40
Zoom1 オンライン(ライブ配信)
オーガナイザー
齊尾武郎(フジ虎ノ門整形外科病院内科・精神科)
加部一彦(埼玉医科大学総合医療センター小児科)
報告者
加部一彦(埼玉医科大学総合医療センター小児科)
栗原千絵子(神奈川歯科大学)
宮岡等(医薬品医療機器総合機構)
キーワード
通過儀礼,伝統主義,プロフェッショナリズム,職業的象徴
報告
近年、医学生が臨床実習を行うに先立ち、白衣を授与する儀式が行われるようになった。本ワークショップでは、最初に齊尾が白衣は医師の特権意識を助長するものであり、白衣授与式は不必要なのではないかとの問題意識を提示した。
次に加部が白衣授与式の概要と今日的意義をまとめた。白衣授与式はそもそも、米国で始まり、医学教育の初期段階で医学におけるヒューマニズムを強調し、優れた科学と思いやりある患者ケアのバランスについて注意を促すことを企図して行われたが、その後、儀式の正当性や前時代性・道徳性などを巡り賛否両論が巻き起こった。日本では当初は医学生としての自覚を促す儀礼的な意味合いであったが、現在は医学教育の後半に実施される臨床実習の開始に先立って全国各地で行われている。医学教育モデルコア・カリキュラムの2016年の改訂後は医師の「仮免許交付」的な実務的意味合いを帯びるようになった。同カリキュラムの2022年改訂案では、生命倫理に関する多くの術語が削除されており、医学教育は知識偏重から技能重視に変化した。プロフェッショナルとしての態度・振る舞いが軽視される傾向にあり、質の高い医師とは何かという議論が欠落している。
さらに栗原が患者・市民・生命倫理の視点から、医師の白衣のイメージ、医師が白衣を着ない医師の特徴、ヒポクラテスの誓いや世界医師会「ジュネーブ宣言」などの医師プロフェッショナリズムの誓約と白衣授与式の関係などについて問題提起した。また、白衣が象徴する誠実さや科学性、白衣を脱ぐことが象徴する人間的医療といった、医師に求められるものについての歴史的変遷を考察した。
最後に宮岡が大学教員としての長い経験から、医学生に対する通過儀礼の必要性は認めるものの、解剖学実習などの人体に接する実習の前の方が良く、白衣の実用性や象徴面を勘案すると、白衣の授与という形式である必要はないとした。
総合討論では、白衣によって医師であることがわかることが重要といった意見(有徴性・標識性)、いっぽうで近年はスクラブを着用する医師が増え、技術者としての側面が強くなったのではないか、医師ではなくても白衣を着て権威を示すことを推奨された経験がある、など活発な議論が展開された。今後の展望として、戴帽式の長い歴史のある看護職との比較等を行うことなどが考えられた。
齊尾武郎(フジ虎ノ門整形外科病院内科・精神科)