2022年11月19日(土) 10:30~12:00
Zoom2 オンライン(ライブ配信)
オーガナイザー
齋藤信也(岡山大学)
報告者
児玉聡(京都大学)
白岩健(国立保健医療科学院)
キーワード
医療資源配分、ageism、fair inning argument、若年者優先、高齢者差別
報告
3年に及ぶ新型コロナウィルス感染症の蔓延は、我々に希少な医療資源配分の判断に年齢の要素を導入すること、端的にいえば高齢者差別につながりかねない議論を突きつけることとなった。その際に援用されたのがいわゆるフェアイニング論(Fair inning argument:FIA)であったが、功利主義との異同が不分明なまま言葉だけが上滑りしていた感も否めない。
そこで本ワークショップでは、まず京都大学の児玉聡から、「年齢による区別は差別か」と題して、①フェアイニング論と功利主義的高齢者差別②COVID-19パンデミックにおける高齢者差別の実践の2点について発表があった。
Bognar & Hirose “The ethics of health care rationing. 2nd Ed)に依拠しながら、功利主義的な高齢者差別論(utilitarian ageism)とFIAの違いが詳しく紹介された後に、前者が問題になるのはそれが不当な差別につながる時であって、政策として取りうるものであるという立場が示された。功利主義的な発想と、FIAは内容や正当化が異なること、すなわち、功利主義的資源配分では得られる生存年あるいは質調整生存年(QALY)が重要なので必ずしも高齢者が後回しになるとは限らない一方で、FIAでは70歳でカットオフになり、高齢者を明確に後回しにしていることの説明があった。
次に実践例として、功利的高齢者差別論に基づいたイタリアの政策、平等論に立つドイツ医師会、FIAをベースとしたカナダ、オーストラリア、QOLと年齢を用いるスイスが紹介された。こうした資源配分ガイドラインの作成者が年齢をマイナーで二次的な考慮に見せたいのは理解できるが、資源がかなり希少になると、年齢はベッドサイドラショニングの主要な考慮になりうるとのまとめは、非常に的を射たものと思われた。
次に、国立保健医療科学院の白岩が「費用対効果評価における年齢の考え方」について報告を行った。上記のQALYを効果指標とし、比較対照薬と比べた対象薬の増分費用効果比(ICER)を算出し、それを目安となる参考値と比較し、それを薬価の調整に用いるという我が国の費用対効果評価制度について、分かりやすい説明があった。それを前提に、薬価が3千万円もするキムリアという抗がん剤を例に、対象患者を70歳で区分して評価したことが紹介された。これは年齢による差別ではなく、その薬の効き目が異なる集団は、別々に評価すべきという費用対効果評価の原則に基づいて行われたというのが公式見解である。しかしこれは、児玉がいう年齢による差別と糾弾されないための予防策とみることもできよう。
その後フロアとの間で、結果として高齢者差別になりうるような資源配分法についてそれが許容可能かどうかについて、活発な議論が行われた。
齋藤信也(岡山大学)