2022年11月19日(土) 13:00~14:30
Zoom1 オンライン(ライブ配信)

オーガナイザー

児玉聡(京都大学大学院)

提題
  • 日本のCOVID-19対応政策の検討ー政策の厳格さ指数等を用いた各国比較を通して
      田中美穂 (日本医師会総合政策研究機構/立命館大学大学院)・伊沢亘洋 (京都大学大学院)
  • 台湾のCOVID-19対策による終末期医療への影響ー事前指示書による治療中止の課題
      鍾宜錚(早稲田大学社会科学部)
  • フランスと日本におけるパンデミック対応の批判的検討
      三上航志(京都大学大学院)・小門穂(神戸薬科大学)
  • 指定発言(特定質問)
      井上悠輔(東京大学医科学研究所)
キーワード

COVID-19, ELSI, 公共政策, 終末期医療

報告

 本シンポジウムでは、COVID-19のパンデミックとその対応がもたらした様々な倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について、日本と諸外国の政策対応を比較する形で検討を行った。

 まず、オーガナイザーの児玉聡が、オックスフォード大学の「COVID-19政府対応トラッカー」などの各国の政策を指標化し評価に用いる動きを紹介した。次に、田中美穂と伊沢晃洋がそれを受け、主に日本とイギリスの政策対応について報告を行った。田中は日本の水際対策や接触追跡などの政策の特徴について述べ、医療資源の配分の議論が不足していたことや、私権制限の負の影響である差別や偏見の防止に課題が残ったことなどを指摘した。伊沢は英国政府委員会の検証報告書を紹介し、政府が科学的助言をどう活かすか、および、国際協調が不足していたことが課題として挙げられていた点を強調した。

 次いで、鍾宜錚は台湾におけるDNR指示がパンデミック時にどのように使用されてきたかを報告した。台湾では、オミクロン株の流行によって2022年4月上旬から感染者が急増した中で、政府は死亡者についてDNR指示の有無も公表したところ、誤用・濫用の可能性も指摘され、社会問題化した。鍾は、DNR指示については医療者の間でも認識の不一致があると指摘して、DNR指示に関する市民の認知度の向上や終末期医療におけるインフォームド・コンセントの重要性を強調した。

 第三に、小門穂と三上航志がフランスの議論を紹介した。小門はパンデミック下の情報発信として、政府が科学カウンシルや独立諮問委員会(CARE)、公衆衛生機構などの様々な情報源を通じて市民に情報提供を行ったこと、またSNS上の誤報へ対応する取り組みなどもあったことを紹介した。三上は三度の衛生緊急事態宣言が出されたフランスにおいて、行政を監視する司法の役割も含めてどのように人権保障の取り組みがなされていたかを紹介した。

 以上の報告を受け、井上悠輔が特定質問を行った。政策立案におけるEBPM(エビデンスに基づいた政策立案)が強調される中、誰がどのようにエビデンスを集めるのが適切なのか、また情報発信の主体と客体の流動性をどう評価するか、さらに私権制限の厳格さと有効性について評価や検証が必要だという指摘がなされた。

 フロア(オンラインの参加者)からは、政策立案のプロセスや内容の質に関するモニタリングやフィードバックを各国がどのように考えていたのかや、私権制限や差別の話題に関連してキリスト教やイスラム教などの信仰の問題が活発に論じられた。

児玉聡(京都大学大学院)