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日本生命倫理学会ホームページ開設のご挨拶に代えて

日本生命倫理学会は1988年に創立、発会した。それ以来今、ほぼ10年の活動の歴史を経ている。このとき、生命倫理学会は、重大な転機、危機を迎えているように思われる。

sakamoto.jpg日本生命倫理学会第3期代表理事・会長 坂本百大(さかもと・ひゃくだい)振り返ってみれば、この十年は生命倫理学会にとっては輸入と模索の時代であった。「生命倫理」という語の定義もままならないまま、とくに、米国におけるこの語の爆発的流行と新科学技術の圧力を前にした医療現場の困惑を背景に生硬な翻訳語に過ぎない「生命倫理」という語は恰も救世主の如く日本の各界に広まった。そしてその最中に日本生命倫理学会が創立された。私自身は生命倫理とはこの語の創案者V. R. Potter の意を汲んで、1960年代の科学技術革新(イノベーション)の時代に起こった「テクノロジー・アセスメント」すなわち、近代科学に対する将来に向けての地球と人類の将来を憂える批判と再評価の運動の一環であったと考えている。しかし、私はこれを当時のあらゆる学問が関与すべき学際的課題であると考え、世界でも稀な学際的学会としての日本生命倫理学会の設立を提案したのであった。 この時期、「生命倫理」の運動を主導した基本理念は圧倒的に「ヒューマニズム」と、その一つの果実としての「基本的人権」の思想であった。医学に限って云うならば、医学によって人を救い、人類を幸福にするという倫理理念から、むしろ逆に、医学が犯す侵襲から人権を守るという倫理理念への移行である。これは一般に、パターナリズムからオートノミーへという近代思想革命の一般的形態と符合する。学会においても「基本的人権」の問題が中心課題の一つとしてしばしば論じられているのはこの意味で妥当なことである。

だがしかし、21世紀を直前にして今、あまりにも明快とみられたこの傾向に対して、ひそかに停留していた暗雲がにわかに、しかも国際的に、また、地球規模において拡がりはじめていることにわれわれは気づかねばならない。それは「環境問題」に他ならない。われわれがこの時期に険しい環境危機を的確に予見できたことは不幸中の幸いであった。しかし、何故に環境危機は起きたのか。それは科学技術の巨大化の故であると指弾することは容易である。しかし、実はその科学技術を発展させ巨大化させたのは近代精神としてのヒューマニズムの本質的特性、D. チラスの言葉に従えば、フロンティアー・メンタリティーであり、そしてさらに、そのヒューマニズムの思想的果実としての「人権」の無制限の主張ではなかったか。

人権の本質は「自由」である。今、環境危機を前にして、われわれは近代への反省としてわれわれの「自由」を、したがって、過去の「人権」の主張を抑制する方法への哲学的、思想的論拠を求めるべき時点に立たされているのではないだろうか。私が、「生命倫理」の危機というのはこの事実のことである。ここで「生命倫理」は「環境倫理」と云われているものと合体しなければならない。いや、むしろ実は、生命倫理(バイオエシックス)という語がはじめてこの世に現れたとき(1970年頃)、それは環境問題そのものであったということを思い起こしたい。(V. R. ポッター著「バイオエシックス-将来への架け橋」1971.参照)

また、同時に、科学、特に生命科学の最新の展開が、この傾向を加速する。最近のクローニングの成功は、「人権」、「尊厳」等の概念を錯綜させ、そして最後には無意味化させかねない。ここでこの危機を救うためにいかなる代替思想があり得るだろうか。例えば、東洋には我欲(人権?)を棄てて帰属集団の和をはかるというタイプの共同体的倫理思想(コミューニタリヤニズム)が伝統的に根強い。これは悪しき封建思想であるかもしれない。しかし、現実に東洋、とくに、アジアが今、生命倫理に進出し、欧米的生命倫理の理念を突き崩しつつあるのも事実である。例えば、中国は「孔孟思想に基づく生命倫理」を開発しようとしている。孔孟思想は元来、西欧的ヒューマニズムとは異質である。

このような状況の中で、われわれは生命倫理の新しい道をいかに開くべきであろうか。ここで今、欧米倫理がアジア倫理に対して教師として振る舞うことは出来ない。欧米の生命倫理学者もそのことに気づいている。過去の欧米思想の排他的、独善的自負に対するきびしい反省を伴って。ここで日本の位置は思想的に微妙ながら有利でもある。東西思想を生かしつつ融合させ、この生命倫理の本質的危機に対処しうる最適な地理的かつ精神的位置を占めているからである。今、地球環境において生命全体に対する新しい生命倫理Global Bioethics を模索するべき時が訪れようとしている。本学会の学会活動を通じてこのような新しい生命倫理を支える思想が創造されることを期待して、ホームページ開始の言葉としたい。

(日本生命倫理学会・第3期代表理事・会長、日本生命倫理学会設立発起人代表 坂本百大)


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